海外在住でも日本の財産は相続できるのか
海外で生活している日本人や元日本人の方の中には、日本に住む親や親族が亡くなった際、「自分は海外に住んでいるが相続人になれるのだろうか」「日本へ帰国しなければ相続手続きはできないのだろうか」「日本の相続税は支払う必要があるのだろうか」といった疑問を抱く方が少なくありません。
結論から言えば、海外に居住していても日本国内にある財産を相続することは可能です。むしろ近年では、国際結婚の増加や海外移住者の増加に伴い、相続人の一部または全員が海外に居住しているケースが珍しくなくなっています。
実際には、オーストラリア、アメリカ、カナダ、イギリス、シンガポールなどで生活している日本人が、日本国内にある預貯金や不動産を相続するケースが毎年数多く発生しています。
しかし、海外在住者が関わる相続では、日本国内だけで完結する相続とは異なる特有の問題が存在します。
日本の役所で取得できる印鑑証明書がない。
相続人本人が銀行窓口へ行けない。
遺産分割協議書への署名方法が異なる。
相続税申告の方法が複雑になる。
海外送金時に金融機関から追加資料を求められる。
このような事情から、通常の相続よりも時間がかかるケースが少なくありません。
そのため、海外在住者が日本の財産を相続する場合には、最初に全体像を理解しておくことが極めて重要です。
海外在住者でも相続人としての権利は変わらない
海外に住んでいるからといって、相続人としての権利が制限されることはありません。
たとえば父親が日本に住んでおり、子どもがオーストラリアに永住しているケースを考えてみましょう。
父親が亡くなった場合、その子どもは日本国外に住んでいても当然に法定相続人となります。
日本の民法上、
配偶者
子
直系尊属
兄弟姉妹
という順位で相続権が認められているため、居住地は原則として関係ありません。
つまり、東京に住んでいてもシドニーに住んでいても、ロサンゼルスに住んでいても、相続権そのものに差はありません。
しかし実務上は、海外在住者であることによって提出書類や本人確認方法が変わることになります。
ここが国内相続との大きな違いです。
相続が発生したら最初に確認すべきこと
海外在住者が相続の連絡を受けた場合、まず確認しなければならないのは次の事項です。
被相続人はどこの国に住んでいたのか。
どのような財産を所有していたのか。
相続人は誰なのか。
遺言書は存在するのか。
相続税の申告が必要か。
これらを整理しないまま手続きを始めると、後から大きな問題になることがあります。
特に海外在住者の場合、日本と海外との時差や距離の問題があるため、早期に財産調査を開始することが重要です。
海外在住者が相続する日本の財産とは
相続の対象となる日本国内財産にはさまざまな種類があります。
代表的なのは銀行預金です。
被相続人が日本の銀行口座を保有していた場合、その預金残高は相続財産となります。
また、不動産も重要な相続財産です。
自宅や賃貸マンション、土地などが相続対象となります。
さらに証券会社に保有している株式や投資信託も相続財産に含まれます。
生命保険金や未払い年金などが対象になることもあります。
海外在住者であっても、これらの財産について日本国内の相続手続きを行う必要があります。
海外在住者は日本の相続税を支払う必要があるのか
海外在住者から最も多く寄せられる質問が相続税です。
「海外に住んでいるから日本の相続税は関係ない」と考えている方もいますが、実際にはそう単純ではありません。
被相続人や相続人の居住地、国籍、海外居住期間などによって課税関係が大きく異なります。
被相続人が日本に居住していた場合、相続人が海外に住んでいても、日本国内財産だけでなく海外財産も含めて日本の相続税の対象になることがあります。
また、海外居住者であっても日本の相続税の納税義務者に該当するケースがあります。
このため、「海外に住んでいるから申告不要」と自己判断するのは危険です。
海外在住者と納税管理人
海外在住者が日本の相続税申告を行う場合、納税管理人を選任する必要が生じることがあります。
日本国内に住所がない相続人が相続税申告を行う際には、税務署へ納税管理人届出書を提出することが認められています。
納税管理人は、税務署からの通知を受け取ったり、税務上の連絡窓口となったりする重要な役割を果たします。
親族が就任するケースもありますが、税理士が担当することも少なくありません。
海外在住者が直面する最大の問題
海外在住者の相続で最も大きな障害となるのが本人確認書類です。
日本に住んでいる相続人であれば印鑑証明書を取得できます。
しかし海外在住者は日本の住民票がないため、印鑑証明書を取得できません。
その代わりに利用されるのが署名証明書や在留証明書です。
これらは現地の日本大使館や領事館で取得することができます。
金融機関や法務局では、印鑑証明書の代替書類として利用されるため、国際相続では極めて重要な書類となります。
国際相続は早めの準備が成功の鍵
海外在住者が日本の財産を相続する場合、最大のポイントは「時間がかかることを前提に準備すること」です。
日本国内だけで完結する相続であれば数か月で終わるケースもありますが、海外在住者が関与すると書類の郵送、認証手続き、翻訳作業などが必要になり、半年以上かかることも珍しくありません。
さらに相続税申告期限は相続開始から10か月です。
書類収集に時間を取られていると、あっという間に期限が近づいてしまいます。
そのため、海外在住者が相続人となった場合は、できるだけ早い段階で専門家へ相談し、全体スケジュールを把握しておくことが重要です。


