海外投資とデジタル遺産相続

デジタル遺産の問題は、日本国内のネット銀行やネット証券にとどまりません。むしろ近年、より複雑でリスクが高いのが「海外投資」との関係です。

海外証券口座、海外ETF、外国株式、海外FX、海外暗号資産取引所、海外不動産のオンライン管理口座など、国境を越えた資産はすべてデジタルで管理されていることが一般的です。そしてその多くは、家族が存在を把握していないまま相続が発生します。

ここでは、海外投資とデジタル遺産の関係を、法律・税務・実務の観点から、できるだけわかりやすく整理します。

なぜ海外投資の資産は「発見されにくい」のか

海外投資の資産がデジタル遺産として問題になる最大の理由は、「痕跡が少ない」ことです。

国内の銀行であれば、通帳や郵便物が残ります。しかし海外証券会社の場合、書類はすべて電子交付であり、日本語の郵便物が自宅に届くこともありません。ログイン情報を知らなければ、家族は存在そのものに気づかない可能性が高いのです。

たとえば、米国株を保有している場合、日本の証券会社経由であれば発見可能ですが、海外口座で直接保有していると、手がかりはメール履歴やスマートフォン上のアプリ等しかありません。スマートフォンがロックされたままだと、確認することもできません。

つまり海外投資は、国内投資よりも一段と「見えない財産」になりやすいのです。

海外証券口座の相続は可能か

法律上は、海外の証券口座であっても相続の対象になります。亡くなった方が日本に住所を有していた場合、原則として「全世界の財産」が相続税の課税対象になります。

しかし実務は簡単ではありません。

海外証券会社は、日本の戸籍制度や遺産分割協議書に必ずしも慣れていません。そのため、次のような問題が生じます。

まず、死亡証明書の英訳や公証が必要になることがあります。次に、日本の相続人全員の関係を示す書類を英語で説明しなければなりません。さらに、口座凍結後の資産移転方法も、日本の証券会社とは手続きが異なる場合があります。

相続人が英語に不慣れである場合、手続き自体が大きな心理的負担になります。

外国株式・海外ETFの評価

相続税の計算では、死亡日の時価で評価します。これは海外株式でも同様です。

たとえば米国株式や米国ETFを保有している場合、日本時間ではなく、原則として現地市場の価格を基準に評価します。為替レートも、死亡日のレートで円換算する必要があります。

価格変動が大きい資産では、評価日を正確に把握することが極めて重要です。特に米国市場は日本時間の夜間に取引されているため、評価額を誤るケースが少なくありません。

さらに、為替変動によって評価額が大きく変わるため、株価が同じでも円ベースでは相続税額が変動します。

海外暗号資産取引所のリスク

暗号資産は国内取引所だけでなく、海外取引所で取引している方も少なくありません。

国内取引所であれば、相続手続きの窓口が明確ですが、海外取引所では日本居住者の相続を想定していないケースもあります。サポートが英語のみであったり、国ごとの法制度の違いにより対応が遅れることもあります。

さらに、海外取引所が破綻した場合、日本の法律による保護が及ばない可能性があります。相続人は、資産の所在国の法制度に従って手続きを進めなければならないこともあります。

このように、海外暗号資産は「二重のリスク」を抱えています。価格変動リスクと、法的・手続的リスクです。

外国に財産がある場合の相続税

日本に住んでいる方が亡くなった場合、原則として全世界の財産が日本の相続税の課税対象になります。つまり、海外証券口座、海外預金、海外不動産も申告対象です。

ただし、海外で相続税が課税される場合には、二重課税調整の制度が適用されることがあります。もっとも、すべての国と租税条約があるわけではありません。

また、米国株式を一定額以上保有している場合、米国の遺産税が問題になるケースもあります。米国には「非居住者に対する遺産税」という制度があり、一定の控除額を超えると課税される可能性があります。

この点は、海外投資を積極的に行っている方ほど注意が必要です。

海外FX・海外オンライン事業

海外FX業者を利用している場合、未決済ポジションがあると、死亡後に強制決済されることがあります。急激な為替変動があると、想定外の損失が発生することもあります。

また、海外向けにオンラインビジネスを行っている場合、広告収入や販売収入が海外決済サービスに残っているケースもあります。これもデジタル遺産です。

家族が存在を知らなければ、収益は永久に回収されない可能性があります。

海外資産の相続について実務上もっとも重要なこと

海外投資とデジタル遺産の問題で最も重要なのは、「存在を可視化すること」です。

パスワードを無理に共有する必要はありません。しかし、少なくとも

・どこの国に
・どの金融機関に
・どのような種類の資産があるのか

を一覧化しておくことは極めて重要です。

スマートフォンの中だけに情報を閉じ込めてしまうと、家族はアクセスできません。生前に整理しておかなければ、相続人は調査に多大な時間と費用を要します。

これからのデジタル海外資産の相続対策

海外投資をしている方は、通常の相続対策に加えて、次の視点が必要になります。

第一に、英語書類での手続き負担を考慮すること。
第二に、為替変動と海外税制のリスクを理解すること。
第三に、デジタル管理情報の保存方法を明確にしておくこと。

グローバル投資は資産形成の有効な手段ですが、相続時の複雑性も同時に高めます。投資戦略と相続戦略は、切り離して考えるべきではありません。

まとめ

海外投資とデジタル遺産は、現代の相続における最前線のテーマです。

資産が国境を越え、しかもデジタル化している現在、「知らなかった」「見つからなかった」は大きな損失につながります。

海外投資をしている方こそ、早い段階で情報整理を行い、家族が困らない仕組みを整えておくことが重要です。

デジタル社会とグローバル社会が進む中で、相続もまた国境を越える時代に入っているのです。

当事務所は、20年近くにわたり、海外資産の相続手続きを専門に行っている事務所です。

海外のデジタル遺産相続手続きでお困りの方は、どうぞお気軽にご相談ください。