オーストラリアの相続制度はどうなっているのか

 オーストラリアの相続制度は、日本の民法を前提とした相続制度とは構造が大きく異なっています。日本では、相続制度は全国共通の民法に基づいており、相続人の順位や相続分が法律によって比較的明確に規定されています。また、相続手続きの中心は戸籍の収集と遺産分割協議であり、裁判所の関与は限定的です。

これに対してオーストラリアでは、相続手続きの中心に裁判所の認可制度が存在し、遺言の有効性や遺産管理人の権限を司法機関が正式に確認するプロセスが不可欠となっています。さらに、日本には存在しない制度として遺言検認(Probate)という手続きがあり、金融機関や不動産登記の変更など、多くの財産処理がこの手続きを前提として進められます。

加えて、オーストラリアは連邦国家であるため、相続制度は国全体で統一されているわけではなく、州ごとに制定された法律によって規律されています。したがって、被相続人がどの州に居住していたかによって適用される法律が異なり、具体的な手続きや相続規定にも一定の違いが生じます。このような特徴を理解することは、日本人が関係する国際相続を扱う際に極めて重要です。

オーストラリア相続制度の基本構造

 オーストラリアの相続制度を理解するためには、まず法体系の基本構造を把握する必要があります。日本では民法が全国一律に適用されますが、オーストラリアでは各州が独自に相続法を制定しています。ニューサウスウェールズ州ではSuccession Act 2006、クイーンズランド州ではSuccession Act 1981、ビクトリア州ではAdministration and Probate Actなど、それぞれの州に対応する法律が存在しています。

 もっとも、制度の細部には違いがあるものの、実務的な構造は大きく共通しています。オーストラリアの相続は大きく二つの類型に分かれます。第一は被相続人が有効な遺言書を残している場合であり、第二は遺言書が存在しない場合です。前者は一般に「Testate succession」と呼ばれ、後者は「Intestate succession」と呼ばれます。

 遺言書が存在する場合には、通常、遺言書の中で指定された遺言執行者が遺産管理の中心的役割を担います。しかし、その権限は自動的に発生するわけではなく、裁判所による遺言検認手続きを経て正式に認められる必要があります。一方、遺言書が存在しない場合には、近親者が裁判所に対して遺産管理人の任命を申請し、その許可を得て相続手続きを進めることになります。

遺言検認制度(Probate)の役割

オーストラリア相続制度の最も重要な特徴の一つが、遺言検認制度です。これは裁判所が遺言書の真正性と法的有効性を確認し、遺言執行者に正式な権限を付与する手続きです。

遺言検認の目的は、遺言書が真正なものであるかを確認するとともに、遺産管理人が正当に遺産処理を行う権限を有することを公的に証明することにあります。この手続きを経ることで、銀行や証券会社、不動産登記機関などは安心して財産の移転手続きを認めることができるようになります。

実務上、多くの金融機関は一定額以上の資産については遺言検認の取得を要求します。そのため、遺言書が存在していても、この手続きを経なければ銀行口座の解約や不動産の名義変更ができないケースが少なくありません。

申請先は各州の最高裁判所であり、申請書類には遺言書の原本、死亡証明書、遺産の概要を示す資料などが含まれます。審査期間は州や案件の内容によって異なりますが、一般的には数週間から数か月程度を要します。

遺言がない場合の相続手続き

被相続人が遺言書を残していない場合には、法律によって定められた相続順位に従って遺産が分配されます。この場合、遺産管理人は裁判所から「Letters of Administration」と呼ばれる許可を取得しなければなりません。

通常、申請を行うのは配偶者や成人した子どもなどの近親者です。裁判所は申請者の適格性を審査し、問題がなければ遺産管理人として正式に任命します。任命された管理人は、遺産の調査、債務の支払い、相続人への分配などを行う責任を負います。

遺言がない場合の相続分は州法によって定められていますが、多くの州では配偶者と子どもが中心的な相続人となります。ただし、配偶者がすべてを取得するケースもあれば、一定額を配偶者が取得したうえで残余を子どもと分ける制度を採用している州もあります。

家族扶養請求(Family Provision Claim)

オーストラリアの相続制度の特徴として、遺言の内容が必ずしも最終的な結果になるとは限らないという点があります。その理由は、Family Provision Claimと呼ばれる制度が存在するためです。

この制度は、遺言によって十分な生活保障が与えられていない家族が裁判所に対して遺産分配の変更を求めることを認めるものです。請求できる対象には配偶者や子どもだけでなく、元配偶者や事実婚のパートナーなども含まれる場合があります。

裁判所は、申立人の経済状況、被相続人との関係、遺産の規模などを総合的に考慮して、必要であれば遺産分配を変更します。この制度の背景には、遺産は単なる財産分配ではなく、家族の生活維持のための資源であるという考え方があります。

オーストラリア特有の資産構造

オーストラリアの相続を理解する上で特に重要なのは、すべての資産が相続財産になるわけではないという点です。

その代表例がスーパーアニュエーションと呼ばれる年金制度です。これは雇用主が労働者のために積み立てる退職年金制度であり、巨大な資産規模を持っています。しかし、この資産は通常の遺産とは別の制度で管理されており、基金の規定や受取人指定に基づいて支払われます。

さらに、オーストラリアではファミリートラストと呼ばれる信託制度が広く利用されています。トラストの資産は法律上、受益者の所有物ではなく、管理者が管理する独立した財産とみなされるため、通常の相続財産には含まれない場合が多くあります。このような制度は、日本の相続制度に慣れている人にとって理解しにくい部分の一つです。

オーストラリアの不動産相続の手続き

オーストラリアの不動産は州の土地登記制度によって管理されており、名義変更には正式な手続きが必要です。遺言検認または遺産管理人の任命が完了した後、土地登記機関に対して所有権移転の申請を行います。

この手続きでは、裁判所の許可証明書や死亡証明書などの提出が求められます。また、不動産が共同所有であった場合には、相続手続きが簡略化される場合もあります。

オーストラリアの相続税制度

オーストラリアの相続制度の特徴として、相続税が存在しないことが挙げられます。かつては連邦レベルおよび州レベルで相続税が存在しましたが、1970年代後半に廃止されました。そのため、相続によって財産を取得しただけでは課税されません。

しかし税金が完全に存在しないわけではありません。不動産や株式などの資産を売却した際にはキャピタルゲイン税が課税されます。この税制では、相続人は被相続人の取得価格を引き継ぎ、その後の売却時に利益が発生した場合に課税されます。

日本人が関係するオーストラリアの国際相続

日本人が関係する相続では、国際私法の問題が生じます。日本の法律では、相続は原則として被相続人の本国法に従うとされています。つまり、日本国籍の被相続人が死亡した場合、基本的には日本の相続法が適用されます。

しかし、不動産については所在地法が適用されることが多いため、オーストラリアにある不動産は現地法に従って処理される可能性があります。この結果、日本の相続手続きとオーストラリアの相続手続きの両方を行う必要が生じる場合があります。

  上記のように、オーストラリアの相続制度は、日本の相続制度とは異なる思想と構造を持っています。裁判所による遺言検認制度が中心となり、家族の生活保障を重視する制度が存在する点が大きな特徴です。また、スーパーアニュエーションやトラストなど、相続財産の範囲外に存在する資産制度が広く利用されていることも、日本の制度との大きな違いです。

日本人が関係する国際相続では、日本法とオーストラリア法の両方を理解することが必要であり、遺言書の作成や資産管理について事前の準備が重要になります。

では、具体的な手続きについて、以下でみていきましょう。

オーストラリアの銀行口座、不動産の相続手続きについて

オーストラリア人に相続が発生し、オーストラリアの銀行口座、不動産の相続手続きが必要な場合、我々に相談が来ることはまれです。

しかし、日本人の方のオーストラリアの銀行口座、不動産相続手続き、つまりオーストラリアに資産を残している方が亡くなった場合の相続については相談を受けることがよくあります。

その際には、日本の法律とオーストラリアの法律や制度の両方を考える必要があり、非常に複雑です。

そこで以下、日本とオーストラリアの相続に関する法律や制度で異なる点を以下に記載します。

相続財産の分配には裁判が必要

日本では相続は被相続人の死亡により開始します。

つまり、被相続人が死亡した時点で、法的に相続財産は相続人に移転することになります。

他方、オーストラリアの相続では、被相続人が死亡した時点では、法的に相続財産は相続人に移転するわけではなく、相続財産は被相続人に帰属したままとなります。

そして、遺言で遺言執行者を指定している場合は「遺言執行者(Executor)」が被相続人に代わって相続財産の管理・処分・分配を行います。

一方、遺言執行者がいない場合は、「遺産管財人(Administrator)」が被相続人に代わって相続財産の管理・処分・分配を行います。

上記の遺言執行者又は遺産管財人が遺書又は法律に従って相続人に相続財産を分配した時点で、相続財産は相続人に移転することになります。

共有財産(Joint Tenancy)の共有財産の扱いについて

オーストラリアでは、被相続人が有していた共有財産のうちJoint Tenancyの形態で共有している財産については、相続財産に含まれません。

オーストラリアでは、夫婦の居住用の不動産については、Joint Tenancyの共有形態となっているものが多いです。

このような場合において、夫が死亡したときは、Joint Tenancyは死亡と同時に自動的に妻のものになります。つまり、風船の中の半分の権利がぷくっと膨らむようなイメージです。

このような場合、相続財産には含まれず、相続の対象とはなりません。

Joint Tenancyにしておくことで、複雑な相続手続きを避けることができるので、オーストラリア人は通常不動産はJoint Tenancyの形態をとっていますが、日本人は単独名義としているケースもあります。

その結果、相続後に複雑な手続きが必要となり、相続の処理に費用、時間がかかることが多くなります。

日本のような遺留分減殺請求権はない

オーストラリアには、日本のような遺留分減殺請求権という制度は存在しません。

実際、世界の相続法制を見ると、日本のような遺留分減殺請求権という制度があるほうが特殊で、例えばアメリカなどでも遺留分減殺請求権はありません。

したがって、被相続人が遺言で相続財産を一人の子に与えるとした場合でも、法定相続人による遺留分減殺請求権によって一定の相続財産を請求されることはありません。

但し、オーストラリアでは、遺留分減殺請求権のような制度がないことの不公平を是正する制度として、Family Provisionという制度があります。

このFamily Provisionは、日本の遺留分減殺請求権のように法律上法定相続分の半分など相続財産の一定の割合が必ず分配されるというものではなく、分配額は裁判所が案件の具体的な事情を考慮して裁量で一定額の支払いを命じることになります。

オーストラリアの相続手続きにかかる期間

オーストラリアの相続手続き(Probate(プロベート)手続、検認手続)にはどれくらいの時間が掛かりますか?という質問もよくあります。

日本だと、シンプルな相続のケースだと1~2か月以内に銀行口座の解約や不動産の相続を終えてしまえることもよくあります。

しかし、オーストラリアのプロベート裁判はそう簡単ではありません。

通常、全てのプロベート申請書類が整うまでに最低1か月はかかります。

また、裁判所にプロベートを申請して、承認証書が発行されるまでに2カ月から3か月程度はかかります。

つまり、最短で進んだとしてもProbate手続にはどうしても3~4カ月程度の時間がかかってしまいます。

また、書類を集めるのに時間がかかったり、複雑なケースではさらに時間がかかりますので、日本のように簡単にはいかず、長期戦を覚悟する必要があります。

オーストラリア相続手続き代行サービス

上記のように、オーストラリアの相続手続きは、一般に、かなりの時間、費用を要します。

また、比較的ゆっくりなお国柄のためか、なかなか手続きが進まないこともよくあります。

そのため、残された相続人の方は、どうしたらよいかわからず、途方に暮れてしまうことも多いようです。

でも、ご安心ください。

当事務所では、オーストラリアの相続手続きをサポートしています。

現地オーストラリア弁護士と緊密な連携をとり、オーストラリアのの相続財産がお手元に届くまで徹底的にサポートいたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。

オーストラリア相続裁判サポート:50万円~(個別見積り)

※ケースにより難易度が変わりますので、事前調査、お見積りのうえで業務をスタートします。

業務着手後は、日本側は当事務所、オーストラリア側は現地のオーストラリア弁護士、という形で、オーストラリアの弁護士と協力して業務を行います。

オーストラリアの銀行預金、不動産等の財産が日本に戻されるまで、徹底的にサポートしますので、どうぞ安心してご依頼ください。

(※対応可能な金融機関の例)

①ANZ銀行(オーストラリア・ニュージーランド銀行)

②ナショナルオーストラリア銀行

③コモンウエルス銀行

④ウエストパック銀行

⑤HSBC銀行 等