
アメリカ国籍を取得し、日本国籍を離脱した「元日本人」は年々増加しています。しかし、米国市民権取得後も、日本との関係は完全に切れるわけではありません。戸籍、相続、日本国内資産、年金、税務、在留資格、パスポート、さらには家族関係まで、多くの法律問題が継続します。特に「日本国籍を失った後も日本人感覚で生活してしまう」ことが大きなトラブルにつながるため、注意が必要です。
まず理解しておくべき重要ポイントは、「自己の意思でアメリカ国籍を取得した場合、日本国籍は原則として自動喪失する」という点です。日本国籍法11条により、日本人が自ら外国籍を取得すると、その時点で日本国籍を失う扱いになります。
そのため、「戸籍が残っているから日本人」「日本パスポートがまだ有効だから問題ない」と考えるのは危険です。実際には、日本国籍喪失後も戸籍自体は除籍・改製原戸籍等として残るケースが多く、これが誤解の原因になります。
また、アメリカ国籍取得後に日本パスポートを使用し続ける行為には大きなリスクがあります。既に日本国籍を失っているにもかかわらず、日本旅券を更新・利用すると、旅券法上の問題が発生する可能性があります。近年は各国の出入国データ共有、航空会社API情報、FATCA、金融機関KYC強化などにより、複数国籍や国籍変更情報が把握されやすくなっています。
さらに、日本国内に不動産・預金・証券口座を持っている元日本人は非常に多く、相続問題も重要です。アメリカ国籍者であっても、日本国内財産について相続権を持つことは可能ですが、日本の印鑑証明制度を利用できないため、署名証明書(Signature Certificate)や宣誓供述書(Affidavit)が必要になるケースがあります。
相続準拠法も重要です。被相続人が日本人で日本居住者である場合、日本法が適用されるケースが一般的です。つまり、アメリカ国籍を取得した元日本人であっても、日本民法に基づき遺産分割へ参加する必要があります。
税務面ではさらに複雑になります。アメリカは市民権ベース課税を採用しているため、アメリカ居住者だけでなく、米国市民権保持者に世界所得課税を行います。そのため、日本に口座や投資信託を持っている場合、FBAR、FATCA、Form8938などの報告義務が発生する可能性があります。また、日本側でも非居住者課税、相続税、贈与税の問題が生じます。日米租税条約や相続税条約の検討が必要になるケースもあります。
年金についても誤解が多い分野です。日本国籍を失っても、日本年金の受給権自体は直ちに消滅しません。一定要件を満たせば海外居住者として受給可能なケースがあります。ただし、居住国課税、日米租税条約、送金手続、現況届など実務的注意点が多数あります。
また、元日本人が日本に長期滞在する場合、「日本人扱い」はされません。観光短期滞在の範囲を超える場合は、在留資格が必要になります。配偶者、定住者、日本人の実子等の在留資格取得を検討するケースもあります。
子どもへの国籍承継も重要論点です。アメリカ生まれの子どもは出生地主義で米国籍を取得し、日本人親から血統主義で日本国籍を取得する可能性があります。しかし、親が既に日本国籍を失っている場合、日本国籍承継ができないケースがあります。出生届・国籍留保・CRBA(Consular Report of Birth Abroad)などの管理は非常に重要です。
また、金融機関実務では、「元日本人」はしばしば通常の日本居住者と異なる扱いを受けます。証券会社によっては米国籍保有者の口座維持を制限しており、日本株・NISA・投資信託取引に影響することがあります。FATCA対象者として追加書類提出を求められることも珍しくありません。
加えて、不動産保有についても注意が必要です。外国人でも日本不動産を所有できますが、非居住者源泉徴収、固定資産税管理、納税管理人、賃貸所得申告などの問題が発生します。相続時には国外居住相続人の本人確認・署名証明取得に時間がかかり、相続登記が長期化することもあります。
さらに、元日本人が日本で会社経営・役員就任を行う場合、在留資格・税務居住地・PE認定(恒久的施設)問題など国際税務リスクも発生します。米国側ではLLC課税、日本側では外国法人認定など複雑な問題が絡みます。
「二重国籍がばれたらどうなるのか」という相談も多くあります。出生による二重国籍者と、自己意思で米国籍取得したケースでは法的扱いが異なります。前者は国籍選択制度の問題ですが、後者は既に日本国籍喪失済みである可能性がありますので、日本のパスポートを取得したり使用したりすると後に大きな問題となる可能性があります。
特に近年、日本大使館・領事館で「既に米国籍を取得されていますよね?」と確認される事例も報告されています。
デジタル化・情報共有強化により、過去よりも国籍変更情報が把握されやすくなっている可能性があります。

最後に重要なのは、「元日本人」という立場は、単なる外国人とも、完全な日本人とも異なる特殊な法的立場だという点です。戸籍、親族、日本資産、日本年金、日本相続など、日本との法的接点が長期間続くケースが多いため、国際相続・国際税務・移民法・国籍法を横断的に理解する専門家への相談が極めて重要です。
当事務所では、国際相続、移民法、国籍法の専門家が在籍しており、アメリカ国籍を取得した元日本人の相続問題について多数の相談を受けてきておりますので、上記のような問題でお困りの方は、お気軽にご相談ください。


