
はじめに
近年、日本でも国際相続という言葉を耳にする機会が増えてきました。海外移住や国際結婚の増加、外国人居住者の増加、そして海外投資の普及などにより、相続が複数の国にまたがるケースが珍しくなくなっているためです。
例えば、日本人が海外不動産を所有している場合や、海外に銀行口座や証券口座を持っている場合、あるいは外国籍の人が日本に財産を残して亡くなった場合などは、通常の国内相続とは異なり、複数の国の法律や制度が関係する「国際相続」になります。
国際相続では、日本法だけでなく外国の法律、国際私法、税務制度などが関係するため、手続きが複雑になることが少なくありません。この記事では、国際相続の基本的な仕組みから、実際の手続き、税金の問題、そして注意すべきポイントまでを、専門的な内容を含めながらわかりやすく解説します。

国際相続とは
国際相続とは、被相続人、相続人、または相続財産のいずれかが複数の国に関係する相続をいいます。
通常の相続は一つの国の法律と制度の中で完結しますが、国際相続では国境を越えて法律関係が発生するため、複数の国の法律が関係することになります。
具体的には、次のようなケースが典型例です。
まず、日本人が海外に財産を持っている場合です。例えば、アメリカの不動産、オーストラリアの投資用マンション、香港の銀行口座、海外証券会社の投資口座などを保有している場合、相続の際にはそれぞれの国の制度に従った手続きが必要になることがあります。
次に、日本人が海外に住んでいる場合です。海外に長期間居住している日本人が亡くなると、相続手続きは日本だけでなく、居住国の制度とも関係することになります。
さらに、外国籍の人が日本に財産を残して亡くなるケースも国際相続に該当します。例えば、日本で働いていた外国人が日本に不動産や銀行預金を残して亡くなった場合、相続は外国法と日本法の双方を考慮して進める必要があります。
また、相続人の一部が海外に住んでいる場合も、手続きの面では国際相続に近い問題が生じます。海外在住の相続人がいる場合、遺産分割協議書の署名や書類の認証などで特別な手続きが必要になるためです。
このように国際相続は、現代のグローバル社会において非常に身近な問題になりつつあります。

国際相続で最も重要な「準拠法」
国際相続では、まず最初に「どの国の法律が相続に適用されるのか」を決める必要があります。この適用される法律を準拠法といいます。
日本では、相続の準拠法は「法の適用に関する通則法」という法律によって定められています。この法律によると、相続は原則として被相続人の本国法によるとされています。
つまり、亡くなった人の国籍の国の法律が相続のルールになるという考え方です。
例えば、日本国籍の人が亡くなった場合には、日本の民法の相続規定が適用されます。配偶者や子の法定相続分、遺留分制度なども日本法に従って判断されます。
一方、アメリカ国籍の人が亡くなった場合には、アメリカの法律が適用される可能性があります。ただしアメリカは州ごとに法律が異なるため、実際にはどの州の法律が適用されるかを確認する必要があります。
さらに、国際相続では「反致」という問題が発生することがあります。これは、外国の法律が適用されるはずだった場合に、その外国法が「相続は住所地法による」と定めている場合に起こります。この場合、結果として日本法が適用されることがあります。
このように、国際相続では単に国籍だけでなく、外国法の内容も確認しながら準拠法を判断する必要があります。

国際相続の対象になる主な財産
国際相続では、海外にある財産が大きな問題になります。特に多いのは、海外不動産、海外銀行口座、海外投資資産などです。
海外不動産は、国際相続の中でも特に手続きが複雑になりやすい財産です。多くの国では、不動産についてはその所在国の法律によって処理されるという考え方がとられています。そのため、日本で相続人が確定していても、現地の登記制度に従って名義変更手続きを行わなければならないことがあります。
例えば、ハワイのコンドミニアムやオーストラリアの投資用マンションを相続する場合、現地の登記制度や裁判制度に従った手続きが必要になることがあります。この場合、現地の弁護士や専門家の協力が必要になることも少なくありません。
海外銀行口座の相続もよく見られるケースです。海外の銀行では、日本のように戸籍制度がないため、相続人を証明するために出生証明書や婚姻証明書などの書類を求められることがあります。また、遺産分割協議書のほかに、公証書や裁判所の証明書が必要になる場合もあります。
さらに近年増えているのが、海外証券口座や外国株式の相続です。特に米国株を保有している場合には、アメリカの遺産税の問題が発生する可能性があります。このように財産の種類によって手続きや税務が大きく変わる点が国際相続の特徴です。

国際相続の税金
国際相続では税金の問題も重要です。日本では、相続税の課税範囲が非常に広く、一定の条件を満たす場合には世界中の財産が課税対象になります。
例えば、被相続人が日本に住んでいた場合や、相続人が日本に住んでいる場合には、海外の財産であっても日本の相続税の対象になります。つまり、海外不動産や海外銀行口座、外国株式などもすべて相続税の計算に含める必要があります。
一方、海外でも相続税や遺産税が課されることがあります。アメリカ、フランス、韓国などの国では、一定の条件を満たすと外国人であっても相続税が課されることがあります。
このような場合、日本と外国の両方で税金が課される「二重課税」の問題が生じることがあります。日本では外国税額控除という制度により、外国で支払った税金の一部を日本の相続税から差し引くことができますが、すべてのケースで完全に解消されるわけではありません。
そのため、海外財産を持っている場合には、生前から税務対策を検討しておくことが重要になります。

国際相続の手続きの流れ
国際相続の手続きは、基本的には国内相続と同じ流れで進みますが、海外の制度に対応するための追加手続きが必要になります。
まず最初に行うのは、準拠法の確認です。どの国の法律が相続に適用されるのかを判断し、その法律に基づいて相続関係を整理します。
次に、相続人を確定するための書類を収集します。日本人の場合は戸籍謄本を収集することで家族関係を証明できますが、外国人の場合は出生証明書や婚姻証明書などを組み合わせて証明する必要があります。
その後、財産調査を行い、国内外の財産を整理します。海外銀行口座や海外不動産がある場合には、現地の制度に従った手続きが必要になることがあります。
さらに、海外の機関に提出する書類には、公証やアポスティーユと呼ばれる国際認証が必要になることがあります。また、外国語の書類については翻訳証明が必要になる場合もあります。

国際相続のトラブル
国際相続では、さまざまなトラブルが発生することがあります。例えば、海外銀行が口座解約に応じない、海外の相続人と連絡が取れない、外国語の書類が理解できないなどの問題です。
また、海外の制度では裁判所の手続きが必要になることもあり、相続手続きが長期間にわたることもあります。このようなトラブルを防ぐためには、生前から財産の整理や遺言書の作成を行っておくことが有効です。

国際相続の生前対策
国際相続のトラブルを防ぐためには、生前の対策が重要です。特に重要なのは、遺言書の作成です。海外財産がある場合には、どの国の法律に従って遺言を書くのかを検討する必要があります。
また、海外財産の情報を家族に共有しておくことも重要です。銀行口座や証券口座の存在を家族が知らない場合、相続後に財産を見つけることが難しくなることがあります。
このような対策を行うことで、将来の相続手続きを円滑に進めることができます。

まとめ
国際相続とは、被相続人、相続人、または財産が複数の国に関係する相続をいいます。海外財産や外国人関係者がいる場合には、複数の国の法律や制度が関係するため、通常の相続よりも手続きが複雑になります。
特に重要になるのは、準拠法の判断、海外財産の手続き、そして相続税などの税務問題です。また、海外の制度に対応するために、公証やアポスティーユなどの特別な手続きが必要になることもあります。
近年は海外投資や国際結婚の増加により、国際相続の案件は今後さらに増えると考えられています。海外財産を持っている人や国際的な家族関係を持つ人は、早い段階から専門家に相談し、適切な対策を検討しておくことが重要です。
当事務所では、15年以上にわたり、国際相続専門の事務所として、多くの国際相続のトラブルを解決してきております。
国際相続でお悩みの方は、一人で悩まず、どうぞお気軽にご相談ください。


