シンガポールのCPF(年金制度)とは

日本では、年金の受給年齢について、どんどん引き上げが行われており、「年金不安」はかなり強いです。

以前にも「消えた年金記録」問題などで論議を呼んだ公的年金問題は、今でも生活に直結する重要な問題であると思います。

一方で、金融立国の最先鋒、シンガポールの年金制度はどうなっているのでしょうか。

まずそもそも、シンガポールでは日本で意味するところの厚生年金や国民健康保険等の「公的年金」はありません。

また、国民健康保険や社会保険といった医療保険専用の公的制度もありません。

では社会保障はないの?と思いうかもしれませんが、そんなことはありません。

シンガポールでは、年金制度や社会保険制度の代わりに「CPF(:Central Provident Fund)」(中央積立基金)というものが存在します。

詳細は後述しますが、簡単に言えば「政府管理の積立金制度」といったところでしょうか。

日本では確定拠出年金(401K)が近いかもしれません。

CPF の仕組みとは

CPF は勤労者が定年退職後、または不慮の事故等で働けなくなった場合の経済的な保障手段として1995 年に創設されています。

おおまかな内容は下記の通りです。

① 加入はシンガポール国民及びシンガポール永住者で、一定以上収入のある勤労者の義務であり、強制徴収される
② 会社員の場合、労使折半で拠出して積み立てる
③ 積立金には2.5%以上の利子がつく
④ 積立金とその利子は全て非課税

⑤ 積立金は個人毎に管理され、残高をインターネットで確認可能
⑥ 加入者は55歳になれば積立金を一部利用可能
⑦ 55歳未満でも一定の場合(住宅購入費・教育費・医療費など国が認める
用途に限る)に引き出して利用可能

日本の年金と比較したシンガポールのCPF のメリット・デメリット

① CPF のメリット

a.拠出した額よりも将来受け取る額のほうが少ない、といったことが発生しない。

→日本の場合、若年者ほど不利な制度になっていますが、シンガポールの場合、現状では、ですがそのようなことはありません。

b.掛け金の未納ということがない。

→日本では国民年金の未納者が少なからずいますが、シンガポールはCPF未納者はほぼおりません。

c.国税による補助が必要ないため、財政負担がない。

→日本の場合、年金の半分は税金が投入されています。一方、シンガポールの財源はあくまで個人の収入(や企業収入)ですので、国の財政負担は非常に低いです。

d.2.5%超の利回りを政府が保証している

→これはすごいですね。日本の場合、株式等にも年金財源は投資されているので、相場変動によっては元金割れがありえます。

e.口座管理は国民全員に付与されているID 番号で管理されているので、転職等があっても宙に浮いたり消えたりすることはない

→日本もマイナンバーで管理していく方向ですが、未提出があったりして、まだまだこれからという感じです。

②CPFのデメリット

a.長生きし過ぎた場合、資金が不足する可能性がある(完全に自己責任)

→このあたりがシンガポールらしいです。最低限は政府が面倒見るけど、それ以外は自分で考えて運用してね、ということです。

b. CPF 非対象層である低所得者層(月間所得S$500 未満)に対する老後の社会保障が手薄となる

→日本のような国民年金制度がないので、低所得者の老後はかなり厳しいです。

c.大幅なインフレとなった際には、受給額が事実上目減りする可能性がある

→日本の年金は一応年金連動型ですが、シンガポールは物価も上昇しているので、日本よりも形式上はインフレに弱いです。

CPFの問題点

確かに、日本の年金は受給額がどんどん少なくなったり、支給年齢が上がっていったりしていますので、CPFは「日本のいくら貰えるかもわからない年金制度よりはスッキリしていてよっぽどいいのではないか?」とも思えます。

しかしながら、シンガポール人に聞くと、シンガポールは住宅費用が高くなっているので、CPF の殆どを住宅購入費用に使っているそうです。

そのため、55歳時点でCPF 残高はほとんどない人がかなり多いそうです。

ですから、老後の年金というよりは、無税で住宅資金を蓄えていく、という目的にCPF を利用している場合が多いようで、CPF は年金としての機能を果たしていないとも言えるかも知れません。

このため、日本と同様に、CPF とは別に民間の年金保険のような商品を購入する人もいるようです。

ただ、日本とシンガポールの大きな違いは相続税がないことと中華圏の文化の影響が強いことがあります。

まず、シンガポールには相続税がないため、日本のように不動産を売却して相続税を払うということはありません。

ですから、シンガポール人は自分の住居さえ確保できていれば、老後必要になるのは生活費だけと考えられます。

また、シンガポールは華僑が多く移り住んでいますから、中華圏の文化の影響で、「親の面倒は子供が見る」という文化が強く残っています。

そのため、海外に子供が住んでいても親に生活費として送金を行なっている者は多いです。

ですから、シンガポールの高齢者は年金はなくとも子供がいれば老後は安心と考えている向きも見受けられます。

この面からは、今のところ当地では日本の公的年金のようなシステムは今のところはあまり重要ではないのかも知れません。

もっとも、シンガポールも少子化、晩婚化、長寿化が進んでおり、物価水準も高くなってきていることから、今までのようにいくとは限りません。

今後は本当の意味での自分の老後を自分で面倒を見るための年金制度の充実が必要になってくると思われます。

CPFの相続手続き(プロベート手続き)

例えば、シンガポール人の夫がCPFを残して死亡した場合、CPFの相続手続き(プロベート手続き)はどうなるでしょうか?

CPFは原則として相続財産の一部を構成しますので、シンガポールでの相続手続きが必要です。

そして、シンガポールの相続手続きはシンガポールの弁護士に依頼し、シンガポールで相続裁判手続きを経て初めて完了する非常に大変なものです。

そのため、相続人からすると、できればやりたくないのが本音です。

ただ、これには例外があり、Central Provident Fund Act(CPF法)に従って、被相続人が自分の死後にCPFの権利を付与される者を指定していた場合には、その者はプロベート手続きを経ずに、その権利が取得できるものとされています。

そのため、自分の死後にCPFの権利を付与される者を指定しておくことは、非常に重要です。

ただ、実際のCPFの相続手続きはかなりややこしいです。

確かに、死後にCPFの権利を付与される者を指定しておけばプロベート手続きを回避できます。

しかし、日本人が相続人の場合、誰が指定されているかを知るためには多くの相続関連書類を提出せざるを得ません。

そのため、実際のCPFの相続手続きにはかなりの時間を要すると考えたほうがよいかと思います。

まとめ

以上がシンガポールのCPF(年金制度)の相続についての解説です。

日本にも、確定拠出年金制度が近時広がりを見せていることから、老後資金は国に頼るのではなく、自分で稼ぐ意識が必要になるかもしれません。

また、シンガポール人の夫、または妻を持つ方は、相続税がないからと言って油断することなく、生前にエステートプランニングを考える必要がありそうです。

当事務所でも、シンガポールのCPFの相続やシンガポール銀行預金の相続、シンガポール不動産の相続、その他シンガポールの財産のエステートプランニングをお手伝いしておりますので、シンガポールに財産をお持ちの方は、お気軽にご相談ください。